ベリー・ハッピー


       懐かしい夢を見た。

 夢と云っても過去の出来事をなぞったものだ。だからどちらが夢でどちらが現実か、一瞬判らなかった。
 ルルーシュはダイニングテーブルの椅子に掛け、片肘を付いて転寝していたらしい。テーブルの上には空のティーカップ、もう少し先にはベリーが詰まった籠、向かいの席には黙々と手を動かすC.C.が居る。
 そうだ、今朝、ベリーを摘んできたのだ。軽く朝食を用意して、ベリー用の籠も持って、ふたりで散歩がてら。
 黒パンに摘みたてのベリーはよく合う。朝食後にルルーシュは読書を、C.C.は刺繍をしながら日向ぼっこをして、それからふたりでベリーをたくさん摘んで帰ってきた。往路は繋げた手が復路は 互いに籠を抱えるので精一杯だったのだから、成果は上々だろう。
 摘んできたベリーは痛みの有無で選別し、日持ちしないものは今晩のメインディッシュにソースとして使い、あとはコンポートにすれば数日は楽しめる。痛みがなかったものは砂糖を惜しまず 使ってジャムを作れば保存が利く。天日で干してドライフルーツにしてもいいし、それをラム酒に漬けておけば年単位で保つ。食べ方も増え、楽しみも広がるのだ。
 冷蔵庫や冷凍庫がなくても食材を長期保存する方法は存外ある。それを教えてくれたのは、他でもないC.C.だった。
 一般常識や教養はルルーシュに軍配が上がるものの、インフラすら整わない奥山暮らしをする上で必要な生活の知恵はC.C.の引き出しが圧倒的に勝る。それぞれ基盤が異なるのだから、当然のことだ。むしろ頼もしい嫁をもらったものだとさえ思う。
 一度吸収した知恵は自然と馴染み、今ではルルーシュの一部になっている。当初は想像すらできなかったスローライフだが、結構性に合っていたらしい。

「起きたのか」

 選別作業を何とはなしに眺めていたらC.C.も気付いたようだった。紅茶を飲みたいと強請られたので、おとなしく従うことにする。
 しかしC.C.の横を通り過ぎようとして、ふと悪戯心に火が点いた。
 ルルーシュは手を伸ばす。選別済みの、痛みがなかったベリーの中から一際大きいものを選び、口に含んだ。

「あっ、こら」

 甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。山が育んだ自然の甘味。それを素直に楽しめるようになったのもC.C.のおかげだ。
 一方、せっかく選り分けたベリーをつまみ食いされたC.C.は呆れたような、怒ったような貌でルルーシュを見上げている。さらには「まったく、お前は・・」という小言付きだ。それが怖くないどころか、むしろ可愛いと思う。
 今だからこそ可愛い反応を見せてくれるが、これがクラブハウスで共同生活を始めたばかりの頃なら絶対零度の視線と胸を抉る辛辣な皮肉が飛んできたに違いない。さしずめ、『さすがは祖国に牙を剥く男だ、躾がなってないな』あたりだろうか。
 そんなことを考えながら、ルルーシュは自身の考えに可笑しくなった。
 今さら以前のC.C.の反応を予想してしまったのは、十中八九夢の所為だ。C.C.と交わした辛辣な言葉の応酬が、先ほど見た夢の内容である。
 口元を緩めて見下ろすルルーシュを不思議に思ったのか、C.C.が真っ直ぐに見つめてくる。そのなめらかな頬に手を滑らせ、それからルルーシュはC.C.の口にベリーを一粒運んだ。

「!!」

 いきなり口内に何かを突っ込まれて目を白黒させたC.C.も、広がるベリーの味に、不本意ながらも共犯者に仕立て上げられたと理解したのだろう。ちょっと嫌そうな貌をして、それから呆れたように笑った。
 許されている。そう感じればこそ、心は暖かくなる。
 C.C.がルルーシュに甘いところはそれこそ初めの頃からで、つい手を伸ばしたくなる優しさを、ルルーシュはそっと抱き寄せた。






『ベリー・ハッピー』


2017/11/ 8 up