復活祭sss パターン2   【半生半死ルート+コード保有+眠り姫】



 お久しぶりです、と。穏やかな笑顔を浮かべてC.C.を迎えたその人物は、愛らしい顔立ちはそのままに、しかしすでに少女の殻を脱ぎ捨てた立派な女性だった。
 ナナリー・ヴィ・ブリタニア。合衆国ブリタニアの代表をもう何年も務める彼女は、その重責の分だけ少女らしさを早く切り捨てなければならなかったのだろう。しかしそんな苦労の跡など一切見 せず、また、外見がまったく変わらないC.C.に怪訝の眼を向けるでもなく、穏やかに言葉を交わしながら建物の中を案内するナナリーを見て、C.C.の胸中はなんとも複雑だった。
 フレイア投下により壊滅状態に陥ったペンドラゴンに代わり、ブリタニアの首都となったこの地。新しく建造された政庁にブリタニア様式の荘厳かつ華麗な雰囲気はなく、どちらかと云えばトウ キョウ租界にあった政庁に似ている。それには権力の象徴ではなく、実務に徹する姿勢が見て取れた。

「どうぞお入りください」

 通されたのはナナリーが私室として使用しているという部屋だった。寝具の類が見当たらないので、ここは居室兼応接、奥が寝室となっているのだろう。造りとしては一般的であり、だからC.C.が 驚いたのは部屋にではなく、ナナリーの行動に対してであった。

「どうぞ、こちらへ」

 ナナリーが開けた、奥へと続く扉。寝室はプライベートな空間の中でも一番秘められるはずの場所で、手前に応接スペースがあるのに奥へ通すということは、それなりの理由があるのだろう。そ の推測はナナリーが寝室の扉をきっちりと施錠したことで確信に変わった。

「・・・・・」

 今さらナナリーに対して不信感を抱くことはない。ルルーシュの最期の願いを汲み取り、やさしい世界を実現するために邁進してきたナナリーが、今日になってルルーシュの死をC.C.との出逢い に帰属させて詰問するなど到底考えられなかった。だからベッド脇に隠し扉のスイッチがあると知り、クローゼットを抜けて隠し部屋に案内されたときも鷹揚とした態度を崩さずにいられたのだ。
 その部屋は隣の寝室と同じくらいの広さがあった。
 地模様の入った明るいアイボリーの壁紙といい、木目が優しい家具類や、微かに漂う華やかな香りといい、隠し部屋であることを感じさせない、いかにも若い女性好みのプライベートルームと いった印象だった。ナナリーらしい、とでも云おうか。C.C.はよく見知った部屋を訪ねたような気分になる。
 しかし、寝台に横たわる人影を見止めた瞬間、C.C.は驚きのあまりそれしか目に入らなくなってしまった。

「あのとき身体が冷たくなっていくのを確かに感じていたはずなんです。ですが、政庁へ避難してからはずっと一緒にいることができなくて、2日後に心臓が動いていることに気付きました。今では 自発呼吸もあります。・・・それなのに、どれだけ呼びかけても目を覚ましてくれません。昏睡とは違うようで・・、本当に、ただ眠っているだけに見えて・・・。でもあの日から点滴ひとつ打っていませんし、時が止まったみたいに何ひとつ変わらないんです」

 医者に診せ、高度な医療機器で検査してもらいたいのは山々だが、これまでの所業を考えると事情を知る者にしか彼の存在を明かせないため困っている。加えて、死者が生き返るのは現代科 学では説明がつかない。C.C.ならあるいは、と藁にも縋る思いで今日まで探していた。
 ナナリーはC.C.を寝台へと促しながら、切々と語る。
 しかしC.C.の耳には半分も届いていなかった。
 散々迷った挙句に躊躇いがちに触れたのは、ブランケットから出た指先だ。ひやりと冷たい体温は、それでも物云わぬ骸のそれよりも格段にあたたかく、手を包み込むように触れれば、血の通ったやわらかさがあった。
 C.C.の膝から力が抜ける。重力に逆らう気力も湧かず、その場に頽れた。
 ナナリーはそっと部屋を出ていってくれた後らしく、C.C.を助け起こす気配どころが心配する声も掛からない。しかし、今はそれがありがたかった。

 悠久の孤独から救い上げてくれたヒト。
 臆病な彼女に穏やかな愛情を与えてくれたヒト。
 誰よりも自己中心的でありながら、誰よりも世界を慈しんだヒト。


        ルルーシュ・・ッ」


 声に嗚咽が混じる。誰が聞き咎めるでもないその声を他でもない彼に聞かせたくなくて、C.C.は唇を強く噛み締めた。






2017/ 8/ 6 up