ここだけの話 幼子の最近のお気に入りは、C.C.の髪を梳くことである。 ・・・確かに髪を弄るという行為がクセになることは認めよう。かく云うルルーシュも妹ナナリーの髪の手入れをする時間は至福のひとときであったし、ベッドでC.C.の髪に指を絡めるのはお決まりの戯れのひとつだ。 しかし、娘だからといってそんなところまで似なくていいんじゃないか、とルルーシュは思う。 ここでフェチだとか性癖だとか、そういう単語を使わないのは幼子のそれがママゴトの域を出ていないのと、ルルーシュが自身は至ってノーマルだと信じ切っているからだ。 そんなアホらしいことを父親が考えているなど知る由もなく、幼子は熱心にC.C.の髪を梳かしている。 そもそも、事の起こりは幼子のママゴトだった。 ようやくおすわりとハイハイができるようになった赤子を相手にママゴトをする幼子は可愛かったし、微笑ましかった。 が、櫛を持ち出したときはさすがに焦った。 幼子は加減が判らない子どもでは決してない。しかし大人が相手ならいざ知らず、赤子に先の尖ったものを近付けさせるのは、はやり万が一ということもあり危険だ。なので、どうしてもしたい のならC.C.のを、と云い聞かせたところ甚く気に入ってしまったらしい。C.C.がソファで寛いでいるときには決まって幼子が髪と戯れるようになった。 指通りのよいC.C.の絹髪は、もちろん櫛で梳かしても絡んだりしない。一方、父母の姿を思えば納得できるであろう、ルルーシュは実はクセ毛の気がある。ウェーブが緩やかすぎるので短くカッ トした状態ではそうと気付かれないが、伸ばせばおそらくナナリーのようにふわふわの髪になるのだろう。その所為なのかは不明だが、拙い櫛捌きで髪が絡まって以降、幼子はルルーシュの髪を梳かしたいと云わなくなった。 別に、寂しいとは思っていない。 母娘の遣り取りを見守っているのは微笑ましいからだ。 現在C.C.はC.C.で熱心に縫い物をしている。他の家事よりも出来がいい裁縫はルルーシュより上かもしれない。子どもが生まれてからは子ども服を作るのが趣味になりつつある。 街に下りて買うこともできるのに、C.C.は譲らない。 時間が有り余っているからではなく、愛情表現のひとつなのだろう。 秋用の臙脂色のワンピースを縫うC.C.を見遣って、まさか息子にもワンピースを着せたりしないだろうな、などとルルーシュが危惧していると、不意にC.C.の手が止まった。針山を引き寄せ針を戻す。何か不具合でもあったのだろうか。 そのとき、C.C.と眼が合った。しかしそれもほんの一瞬。 ほんの少し顔を傾けて幼子の様子を眺めたC.C.は口元を緩めた。幼子とは反対側の髪を一房指の間に挟み、毛先に向かって指を滑らせる。そして毛先が残り4cm程度になったところで手を止 めた。結果、C.C.の手には絵筆のような毛束が残された形になる。ルルーシュは枝毛のチェックかと思って見ていたが、一体何を考えているのか、C.C.はその擬似絵筆を幼子に近付けた。 やわらかくもしなやかな、C.C.の髪。 それは一切の躊躇いもなく幼子の鼻の下を擽った。 うみゃあ、だか、ふみゃあ、だか意味不明な悲鳴が上がる。悪戯に成功したC.C.は満足そうな笑顔だ。一方、ターゲットにされた幼子は眉を八の字にして母親に抱きついた。怒り半分、照れ半分といったところだろうか。 ルルーシュは幼い我が子で遊ぶC.C.に呆れて声も出ない。そんなルルーシュを尻目に、C.C.は腕に額をグリグリ押し付ける幼子の頭をやさしく撫で、幼子の耳元で何やら囁いた。 大きな目をぱちくりさせながら幼子が顔を上げる。さらにC.C.が一言二言云い含めると、幼子はソファを飛び下りた。そして一直線にルルーシュの元へ向かってくる。両手を広げるのは抱っこを おねだりするサインだ。ルルーシュが希望通りにしてやると、幼子は笑顔で首根っこにしがみ付いた。 「おとうさん、あそぼ」 ルルーシュはハッとしてC.C.を見遣った。が、付き合いの長い嫁はルルーシュの方など見向きもせず針仕事を再開している。 やられた、とルルーシュは思った。 何に対して苛立っているというわけではない。しかし機嫌が良いとは云えない中で、こうやって何気なく宥めてくる 「ぴざやさんごっこがいいな」と無邪気に笑う幼子に案の定絆されたルルーシュは、C.C.にどんな意趣返しをしてやろうかと考えながら、幼子には純粋に笑みを返した。
『ここだけの話』 2015/ 4/14 up |