比翼


 ルルーシュに不老不死以外のコード能力が発現していない        そんなこと、C.C.は気にしたこともなかったけれど。当の本人はそうでもなかったらしく、しかしプライドが高いものだから、 C.C.はそんな相談を一度も受けたことがなかった。
 それが今夜ほろりと零れたのは、たわいもない寝物語の最中だったからだろうか。
 不老不死でも寒いものは寒い。一塊状態で夜を明かすのは嫌ではないが、こうも寒いとクラブハウスのベッドが恋しくなるというものだ。だから遠慮なく寒いと文句を零したら、寒さを凌ぐ能力は ないのかと訊かれて。率直にないと答えたら能力を発現させるにはどうしたらいいのかと問われた。
 そんなの、むしろC.C.が知りたいくらいだ。
 自らの特殊能力を自身で自由に開発できるなら、どれだけよかったことか。
 あるいは不老不死でなくなることも可能かもしれなくて、できたらとうの昔にやっているとC.C.は剥れたわけだが、ルルーシュは特定のではなく能力全般について聞きたかったらしい。
 それからあとはC.C.の昔話になってしまった。


「初めてギアスを与えたのは小さな女の子か?」


 話して楽しい過去なんて、C.C.は持ち合わせていない。
 穏やかな日々は確かにあったけれど、そのどれもが最終的には怨嗟の叫びに掻き消されてしまうのだ。
 ただの契約者であった頃は彼の両親の真実を話せない事情もあって、藪を突かれないようにと 過去に関することはあえて口を噤んできた。それも今となっては隠し立てする必要がないため、請われれば昔話程度ならやぶさかではないという考えに変わっている。
 だから、C.C.の場合はこうだったと一問一答のごとく話すことになってしまって。
 しかし聞き手のルルーシュに熱が籠る一方、話し手のC.C.は眠くなるばかり。意図を推し量ることさえできず、ただ記憶の通りに答えるしかない。

「ぅん? ・・・男、だな」

 顔も性格もおぼろげにしか覚えていない、最初の契約者。彼がどんな人生を送り、どんな形で幕を下ろしたのか、C.C.はよく知らない。忘れたのではなく、知らないのだ。
 なぜなら       ・・


「男?」


 ぎり、と右手首に圧迫されたような痛みが走り、C.C.はぼんやりと瞼を上げた。
 心地よいまどろみの邪魔になる程度の、しかし無視できない強さ。原因は手首に絡み付いた男の手だ。

「ルルーシュ?」

 その彼の膝の間に座り、背後から包むように抱え込まれているC.C.は振り返ることすらできず、ただ呼びかけることしかできない。
 C.C.の訴えを正しく理解しているだろうルルーシュは、しかし拘束を緩めなかった。

「ギアスユーザーの資質でもあったのか?」
「いや・・? 嚮団が引き取った孤児だが」

 真理を追究する嚮団のためにギアスユーザーを生み出すこと        それは嚮主としての勤めだった。ゆえにその孤児との直接的な交流は無いに等しく、どんなギアスが現れたのかさえ C.C.は知らない。
 覚えていないのではなく知らないというのはその辺りの事情だ。
 だから初めてギアスを与えた相手ではあるけれど、厳密に云えば契約者ではないのかもしれない。


「それで、そいつに名前を教えたのか」
「・・・は?」


 今の今までのまどろみは何だったのか、眠気は一瞬で吹き飛んでしまった。
 名前。あまりに唐突な流れの転換に困惑し、C.C.はパチクリと瞬きを繰り返す。
 どうすればコードを使いこなせるようになるのか、という話をしていたのではなかったのか。名前とはC.C.ではなく真名の方だろうか。どうしてそんなことを気にするのだろうか。 ・・・・・それではまるで、ルルーシュが嫉妬しているようではないか。
 ふと気付いた可能性に、面映ゆいような気持ちが広がっていく。

「それはコードと関係があるのか?」

 だから、わざと恍けて意地悪く聞いてやった。
 それは正しく以前のC.C.の応対だ。背後でルルーシュが小さく唸ったのを聞いて気恥ずかしい気分を紛らわしたC.C.は、重心をさらに後ろへ傾けた。


「今はお前だけだ」


 真名を明かしたのはルルーシュが初めてではないが、今はルルーシュが知るのみである。
 それに。

「お前だけの初めてもたくさんある」

 感謝してくれたのも。
 独りじゃないと云ってくれたのも。
 忘れていた願いを思い出させてくれたのも。
 笑顔にしてくれたのも。
        そして、ずっと一緒に居てくれるのも。
 こんなに欠かすことができない大きな存在になっておいて、これ以上何を望むと云うのだろうか。

「さすが、強欲だなぁ」

 揶揄するように云ってやると、ふと肩に重みを感じた。
 見ればルルーシュが顎を乗せている。

「当然だ。俺は魔王だからな」

 その、自信溢れる言葉と声色。覚えがある言い回しにC.C.は眉根を寄せて、それから笑みを浮かべた。
 コードの能力など端から頼りにしていない。
 この男が居てくれれば、それで       ・・






『比翼』


2014/ 1/ 1 up