Femme fatale


 築き上げた厚い友情が、その実ひどく希薄だったことを知った。あのときのことを思い出せば今でも自嘲で笑みさえ零れる。
 しかし唯一にして最強の騎士殿は「所詮、君も僕も男だからね」と事も無げに云った。
 ルルーシュとスザクはどちらも男       これ以上ない程今更な事をクソ真面目な貌で云われても困るというものだ。体力馬鹿は発言する前に内容を吟味してから云え、とばかりに胡乱な視線 を送ると、君は馬鹿なのかい、と眼で返された。
 正直、腹が立つ。
 しかし。


「こんな僕に手を差し伸べてくれた人は他にも居たけど、僕が変われたのはやっぱりユフィのお蔭だから」

 もちろんユーフェミアが女性だから靡いた、という単純な話ではないけれど。
 でも、彼女の包み込むような優しさと裏のない言葉や行動は頑なだったスザクの心に自然と入り込み、驚くべき変化を齎した。それができたからユーフェミアが特別なのか、特別だったから心動かされたのか。
 ・・・たぶんどちらも正解で、だけどどちらも正確ではなくて。
 でも、どちらにせよユーフェミアが女性であったからこそだとスザクは確信している。
 上辺だけの穏やかな友情を演じるのではなく、もっと早い段階で腹を割って話し合って殴り合いのひとつでもしていれば、あるいはルルーシュとも解り合えたかもしれないけれど。これは今更云っても詮無いことだ。
           と、そんな説明になっていないような説明を展開させたスザクは、さらにしれっと云い放った。


「君にとってC.C.がそうだろう?」


 ルルーシュは面食らう。
 スザクもある程度付き合いができてきてC.C.がどんな女か解っているだろうに、どうしてそんな話になるのか。

「C.C.とはそんな・・・・・男女、の・・関係ではない」
「僕とユフィだって違うよ」

 解ってないなぁとスザクは云う。

「そうじゃなくて、・・・あのとき出逢わなかったらって想像ができないくらい特別なんだ、ユフィは」

 その大切な女性を撃った男が目の前に居るというのに、緑柱石色の瞳を優しげに細める。そんなスザクを無言で眺めていたルルーシュは、ふと脳裏を掠めた女の微笑を追った。
 時折儚く微笑む女。
 彼女から与えられたギアスという名の王の力は、確かにルルーシュの人生を一変させた。
 偽りだらけの日々をただ過ごすだけの学生から、ブリタニア軍にも引けを取らない強力な反帝国組織のトップへ。箱庭の中の穏やかな生活から、ときには死線を彷徨う闘いの日々へ。 そして勝利と敗北とを繰り返し、真実を知り、明日への希望を見つけ、その果てに今という瞬間がある。
 すべてはルルーシュ自身の行動の結果だ。
 ブリタニアへの反逆はギアスなしでもやるつもりであったし、反逆当初の予定とは異なる結末を迎えようとしてることに関してC.C.に非はない。
 だから、C.C.と出逢ったからといってルルーシュが変わったわけではない。
         けれど。

(出逢わなかったら、か・・)

 そんなこと、想像できるはずがなかった。
 何の益体もない仮定の話だからではない。C.C.とは出逢って然るべきだったと、あのとき出逢っていなくても別の形で相見えていただろうと、そう思う。
 いつしか誰よりも近くに居た女。
 一番大切なわけではない。どちらかと云えば邪険に扱ってきたし、物理的な距離が開いた時期もあった。しかし一貫して本音だけで接することができたのはC.C.ただひとりであり、そういう点で 云えばC.C.は確かにルルーシュにとって特別で唯一の存在なのだ。
 それがスザクの云ったようにC.C.が女性であるからなのか、そこまでは解らないけれど。


(・・・運命という言葉は好きじゃないが)


 もしも運命の女という存在がこの世に居るのなら、ルルーシュのそれは哀しく微笑む魔女の顔をしているのだろう。






『Femme fatale』




2013/11/12 up