にゃあ、にゃあ、にゃあ




 ルルーシュが「土産だ」と云って投げて寄越したそれを見たとき、C.C.は何の冗談かと思った。
 理解の範疇を超えている。
 もしやナナリー不足で頭がおかしくなったのではないかとさえ疑った。
 ネコの耳がついたカチューシャ       通称、ネコミミ。白くてフワフワした耳は肌触りも心地よく、感触はそのまま本物を思わせる。・・・いや、まさか本物を切り取って くっ付けてあるわけではないだろうが、それにしても。
 一部のマニアにしかウケないであろうブツを渡されてC.C.が喜ぶと、ルルーシュは本気で考えたのだろうか。


「なんだコレは」
「生徒会で倉庫の整理をしていたら出てきた。以前イベントで使ったのが紛れていたんだろう」
「それで? なぜ私に?」
「やってみたいんだろ? イベント」
「・・・・・」


 以前、雑談程度に話した内容を覚えていてくれたことに対しては純粋に嬉しいと感じた。
 が、ずいぶんと意味を履き違えている。C.C.は学園生活を      この時代に生きる一般的な少年少女が経験するあれやこれやを体験してみたいのであって、 ひとりでネコミミを着けてイベント気分を味わいたいわけではない。
 というかそんなことでは気分さえ味わえるはずもない。
 頭はすこぶる良いクセに、どこか感性が致命的にずれている男。しかし、愚かながらも愛おしい共犯者。これもC.C.を揶揄したいがための罠ではなく純粋に好意なのだと 解っているからこそ、そう簡単に無碍にもできない。
 無表情の水面下であらゆる感情を封じ込めたC.C.は、やはり無表情のままネコミミを着けてみた。
 自分の耳ではないから、当然意のままに動かすことは不可能だ。何度か触って位置を確認したあと、ルルーシュを見遣る。
 しかし。


(・・・・、コイツは・・)


 土産を渡すだけ渡して気が済んだのか、ルルーシュはC.C.のことなど露とも気に掛けていなかった。ベンチソファーに腰掛け、眼は忙しなくパソコン端末の画面を追っている。 正しく通常運転だ。一分の隙もない。
 C.C.は面白くなかった。
 元はルルーシュが持ち込んだ物だからである。責任を取れ、と腹立たしく思っても当然のことだろう。C.C.はおもむろにルルーシュの隣に腰を下ろし、二回りは大きい手を取った。
 そのまま指先をカプリ。


「・・、ッ!!???」


 目を瞠って振り返ったルルーシュのことなど無視して、耳元に唇を寄せた。




「にゃあ」




 ひと鳴きしがてら耳をチロリと舐めてやる。ますます驚愕の表情を浮かべるルルーシュの反応が楽しい。頬を染めるでもなく恥ずかしがるでもなく、ただ単に驚いている だけというのがいかにもルルーシュらしい。


「にゃあ、にゃあ、にゃあ」


 どうせ伝わらないことは承知の上でネコ語を連発してやる。ちなみにいま要求しているのはピザだ。ピザ、ピザ、ピザ。ほら、存外それらしいではないか。
 めずらしくルルーシュからの辛辣な嫌味がないことを不思議に思いながらさらに身を寄せると、端末がグラリと傾いた。咄嗟に手を出すでもなく静観しているうちに派手な音を 立ててそれは床に落ちる。
 今度こそ上がるかと思われたルルーシュの怒鳴り声は、しかしC.C.の耳には届かなかった。




「ちょっとアンタたち、何やってんのよ!?」




 代わりに鳴り響いた第三者の怒鳴り声。
 端末が落ちたときに扉が開くエアー音が聞こえたような気がしたのだが、やはり気のせいではなかったらしい。ここでぎゃあぎゃあと騒ぎ出すと考えられる人物は一人しかおらず、 見ればやはり赤髪の少女だった。
 いや、客観的に状況を分析してみると、確かにカレンが騒ぐのも無理はない光景かもしれない。
 ルルーシュの膝に手を置き、しな垂れ掛かるように身体を寄せるC.C.の頭にはネコミミが付いているのだ。他の誰がどう見たって好印象は抱かないだろう。特にカレンの場合は 複雑な乙女心も相俟ってさらに複雑な心境、といったところか。
 だが経緯を説明する手間が面倒でそのまま放置していると、眉をつり上げたカレンは「ふんッ! 一生やってれば!?」と捨て台詞を残して部屋を出て行った。その段になって 初めて動いたルルーシュがカレンを引き留めようと声を上げたけれど、時はすでに遅く、室内には再び静寂が訪れる。
 ルルーシュはカレンを追うような真似はせず、しかし苦虫を噛みつぶしたような貌でC.C.を引き剥がした。


「・・・カレンに誤解されただろうが」
「誤解? カレンに? それで何か問題でもあるのか?」
「万が一、ナナリーに余計なことを吹き込まれたらどうする」
「・・・・・」


 C.C.は呆れた。ルルーシュの行動原理はすべてナナリーに繋がることは知っていたつもりだったが、まさか手元にいない妹とカレンの接触を想定し、危惧するとは。 もっと面白い答えを期待した自分がバカだったとC.C.は内心で嘆息する。
 とはいえ、どうでもいい話である。ルルーシュが端末を拾い上げるのを横目に髪を弄っていると、不意に頭部の圧迫感が消えた。
 見上げればルルーシュの手にネコミミがある。


      お前にはこんなもの必要なかったな」


 そのままでも充分ネコみたいだ、とルルーシュは続けた。
 つまり、気まぐれで我儘、とでも云いたいのだろうか。貶されていることは確実だが、ルルーシュがフリーズするのもなかなか見られない反応ではあるから、愉快と云えば愉快では あった。そう思えば腹も立たない。
 フッと口元に淡い笑みを浮かべてルルーシュを見遣る。
 ルルーシュが渋面を浮かべるところまで想像して、C.C.はお決まりの台詞を口にした。




「そうとも、私はC.C.だからな」












『にゃあ、にゃあ、にゃあ』


一番くじ記念
C.C.=ネコは公式




2013/ 7/ 8 up