ほしいもの 子どもがほしい、と。 C.C.がぽつりと零した言葉に、ルルーシュは手にしていた書類から思わず顔を上げた。 当のC.C.はルルーシュの反応など気にも留めずに窓際で空を眺めている。よく晴れた蒼い空だ。眼に沁みるくらいの、蒼い空。 C.C.はまたぽつりと零す。 「小さな子をひとり、施設から貰い受けてくるとか」 「・・・は?」 子どもがほしいというC.C.の言葉を聞いて、それ以前の・・子どもが生を受けるのに必要となる行為を脳裏によぎらせたルルーシュは、気まずさに少し頬を 染めながら再び書類へと眼を落した。 「犬や猫じゃないんだ、軽々しい発言はするな」 返答には動揺の欠片も見せない。そして、きっぱりと却下する。 対するC.C.は「うー」 とも「んー」 とも聞こえる曖昧な返事を返した。心ここに在らず、といった様子だ。 アリエスは子どもを育てる環境として理想的ではない。 引き取った子に愛情を注ぐことはできるけれど、与えられるのはそれだけになる。友人をつくる機会もなければ、育ての親以外の大人と接する機会もなくなるのだ。 それはその子の人間的、社会的な成長に大きな影響を及ぼすだろう。主に良くない方面で。 そのことはC.C.も解っている。だから一応ルルーシュの注意に従うような返事をした。 しかし、それでもC.C.は「子どもがほしい」 と再度呟いた。先程よりも衝撃は少なかったものの、C.C.の執拗なこだわり具合に内心首を傾げた ルルーシュは再度書類から顔を上げる。ルルーシュの眼に映ったC.C.は、やはりぼんやりと空を見つめていた。 「・・・・・理由は?」 「さあな」 その言葉にルルーシュは得心する。 幼き日のマオに対してそうであったように、C.C.は元来とても愛情深い。それは愛されたいという願いの裏返しに基づくものなのかもしれないが、 それでも彼女が愛情深いことに変わりはないのだ。マオを切り捨てたことを今でも少し引きずっているような節がある。 それが表面化するのは決まって、こんなふうに晴れた日。 泣き出したくなるくらい、空が蒼い日に。 「・・・・・、・・」 ルルーシュは逡巡の末に小さく溜息を零して、書類をローテーブルに放った。 それから滅多に呼ばない彼女の本当の名前を呼んで、片腕を広げる。その、自発的に抱き締めるわけでもなければ両腕を広げて迎えるわけでもない態度が いかにもルルーシュらしくて、振り返ったC.C.は呆れたような笑みを浮かべた。 それでも殊更ゆっくりと歩み寄って、膝の上に腰を下ろす。するとルルーシュの大きな掌がC.C.の後頭部を包み、胸板へと導いた。C.C.の中で響き始める、 ルルーシュの鼓動。狂わないそれにC.C.の心は少しずつ癒され始める。 しかし、完全に満たされることは決してない。 愛されたいという深層の欲求が叶ったときに一度満たされたはずの心は、次の幸せを求めている。 ひたむきに求めてくれる、愛すべき存在が新たに現れるのを待っている。 もちろん絶対的な位置にはルルーシュが居るのだから、他に異性からの愛がほしいというわけではない。そうではなくて、例えば子どものように、 もっと穏やかさに包まれていて、しかし命を賭せるくらい大切な存在がほしいとC.C.は思ってしまうのだ。 どんどん欲深くなっている自覚はある。 死ばかりを望んでいた不老不死のころでは考えられないほど幸福を感じているのに、それ以上を求めてしまう貪欲さには眩暈がする。でも、願いは止まない。 「我儘・・・なんだろうな、私は」 ルルーシュの胸に顔を押し付けて、C.C.は呟いた。 その言葉を受けて、ずっと沈黙を守っていたルルーシュが口を開く。 「ナナリーのように素直で可愛い子がほしい」 「・・・ああ」 「元気で、心優しくて」 「・・・そうだな」 「笑顔が似合う子がいい」 言葉を重ねる度にこみ上げるのは可笑しさだ。 育ての親が少し捻くれた性格をしていても子どもは真っ直ぐに育つものなのだろうか。いや、まず無理だろう。 子どもが手本にするのは身近な大人なのだから、その子生来の気質にもよるだろうが、素直という点に関しては期待できない。それはもう壊滅的に。 C.C.がくすりと笑みを零すと、同じことを考えていたのだろうルルーシュも笑いを堪え切れなかったらしく、小刻みな揺れが直接伝わってきた。 共犯者のころには考えられなかった距離だ。 でも、今では当たり前となったふたりの距離。 C.C.は一瞬だけルルーシュへと頬をすり寄せて、その意外と広い胸から顔を起こした。 「なあ、やはり子どもがほしいよ、ルルーシュ」
『ほしいもの』 夫婦ルルシーは思いきりイチャつかせたいのです。 2008/11/ 5 up |