告白の日 side:S シャーリーは朝からずっとソワソワしていた。 いや、今回のイベントをやると聞いた時から落ち着かない気分で日々過ごしていたのだが、ついにピークに達して爆発したとでも表現すればいいのか。とにかく、昨晩は 緊張でよく眠れなかったことも相俟って、ずっと心ここに在らずだった。 それはイベントが始まっても同じで。 ルルーシュに会いたくないような、でも絶対に会って告白しなければならないような、相反する感情が渦を巻く。 花束と云うには少し心許ない、しかし着実に増えたバラを握り締め、シャーリーは小さな溜息をひとつ零した。 やはり最大の失敗は、すぐにルルーシュのもとへ飛んで行かなかったことだろうか。 告白の日は片恋の相手に想いを告げるための日だ。ゆえに返事の如何は別として、想いの受け取り拒否は認められておらず、だからシャーリーの手にも数本のバラが握られている。 ルルーシュのところへ行こう行こうと思っているうちに増えた、告白された証。 水泳部のエースで健康的な身体つき。美人系とは云い難いが顔立ちは愛らしく笑顔がかわいい。そして何より明るくて人懐こく、友達も多い。 想いを寄せられるのは純粋に嬉しいし、とてもありがたいことだと思う。 が、しかしシャーリーにはモテたい願望がない。むしろたったひとりの想い人と相思相愛でいられればいいとさえ思っている。 それなのに貰ってしまったバラ。 バラが悪いわけではないけれど、気分が重かった。 互いに初恋で恋実り、それが生涯の伴侶となるカップルなんてまずいないだろうことは解っている。だがそれでも夢を見るのがオトメというものだ。 恋愛に関して第三者は存在してほしくない。好きな人だけの自分でありたいし、好きな人は自分だけのものであってほしい。 他の誰かから想いを寄せられるのも嫌だ。 「・・・・どうしよう」 シャーリーは項垂れるように俯いて手元のバラを凝視する。 ルルーシュに告白するのに自らの想い以外の余計なモノは持っていたくない。だけど貰ったバラをどこかに置き去りにするなんて酷い真似はできない。でもこのイベントを逃して 告白を先延ばしにもしたくない。 早くしないとルルーシュが誰かのものになってしまいそうな気がするから。 「・・・・・・・・・・・やっぱり行こうかな」 女は、度胸だ。 あと10秒数えたらルルーシュを探しに行こうと決めて、シャーリーは気持ちを落ち着けるために瞼を閉じた。幸いなことに、校舎脇のベンチに座るシャーリーに誰かが声を 掛けてくる気配はない。ポカポカと暖かい陽射しがシャーリーに元気と勇気をくれる。 深く息を吸って、吐き出して、トクトクと鳴る心臓の音を聞きながら目を開けた、そのときだった。 「シャーリー」 「ルッ、・・ルル!!」 こちらへ迷いなく歩いてくるのは、シャーリーがいま一番逢いたかった人だ。 夢でも幻でも妄想でもなく正真正銘の本人。思わず立ち上がって、そこでルルーシュが抱えるバラに眼を奪われた。 尋常ではない数のバラ、バラ、バラ。花束とはまさしくこのような集合体のことを云うのだ、としみじみ感心してしまうくらいの花がそこにあった。 「・・・シャーリー?」 「あっ、ごめん! えっと、・・す、すごい数だなって思って・・・バラ」 あんぐりと口を開けて凝視してしまった、そのお世辞にも可愛いとは云えない貌をルルーシュに見られ、さらには怪訝そうな貌をされてしまった。 変に思われただろうか。 引かれただろうか。 軽く脳内でパニックが起こる。 しかし胸の内ではもうひとつ確かな感情が渦を巻いていた。 しかも茎が長いバラに交じってリボンが付いたものがチラホラ見えるのは何の冗談だろうか。 だがルルーシュはほんの少し翳ったシャーリーの表情など気に掛けた様子もなく、一度バラの束に視線を落としてからまた顔を上げた。その表情を一言で表すならば、『うんざり』が 妥当なところか。 今ここで告白しても多くのバラの中の1本にしかならないと悟って、シャーリーの心は急激に萎んでいく。 「・・・・しかも、男の子からも・・」 ぽつりと零れた動揺の現れは、しかしルルーシュも動揺させたらしい。 ギョッと目を瞠ったルルーシュが即座に「違う!」と否定したものだから、シャーリーの気分は少し浮上した。 「やっぱりワケありなんだ?」 「ああ。持っていたバラ全部を押し付けられるパターンが何度かあったから」 「なんだ、そういうことか〜。ビックリしちゃった」 シャーリーが明るく笑うと、ルルーシュも表情を緩めた。 やっぱりカッコイイし、この貌は何だか キュンと高鳴った胸はどんどん鼓動を速め、脳裏に『告白』という単語が過ぎる。たくさんのバラに埋もれてもいいじゃないかと、興奮した頭はGOサインを出してきた。 そうだ、告白したその日に返事をもらう必要はどこにもない。まずは好きだということをルルーシュに知ってもらって、それからシャーリーのことをどう想っているか、 じっくりと考えてもらえばいい。 思考より身体が先に動くシャーリーは、告白の具体的な言葉すら決めないまま声を発しかけた。しかし、「ぁのッ、・・」という呼び掛けとルルーシュの「シャーリー」という 呼び掛けが重なってしまい、咄嗟に言葉を呑む。 大丈夫だ、ルルーシュに不審がられてはいない。 「あ、うん、何?」 「その・・・シャーリーは花、好きかな?」 「えっ?」 思いがけない言葉にシャーリーは目を丸くした。 今この状況で花と云われれば、自然とバラに眼がいく。それはルルーシュも同じだったらしく、その瞳はシャーリーの手元を見つめていた。 手に握るものを思わず身体の後ろに隠しそうになって、必死に押し止める。 すっかり忘れていた。 どうやって隠しておこうとか、まったく考えていなかったけれど、ルルーシュにだけは見られたくなかったのに。 綺麗な紫水晶の瞳がどこか不機嫌そうな視線を向けているように見えるのは気のせいだろうか。 カ〜ッと顔に熱が溜まって、頭の中が真っ白になる。 ルルーシュの方から振ってきた話題だけに、妙な期待も高まる。 「す、好きだよっ!」 気付けば、大声で叫んでいた。 しかし勢いは止まらない。 「大好きッ!・・・・ほ、他の人からも貰っちゃったけど、・・でもルルから貰えたら一番嬉しいっ!!」 そう云い切って、シャーリーはゼイゼイと肩で息をした。 云った。 云ってしまった。 これでは『貴方のバラがほしい』と云っているようなものだ。 図々しかったかな、と云ってから後悔が押し寄せてきたが、バラがほしいということは好きという気持ちを向けてほしいということで、 つまりシャーリーはルルーシュを好きだということである。これで気持ちが伝わらないわけがない。 ルルーシュは面食らったような貌をしていたが、シャーリーの願いが届いたのか、すぐに表情を和らげた。 「じゃあ貰ってくれるかな」 「うんっ!!」 そうして両手いっぱいのバラを受け取ったシャーリーは天にも昇る心地だった。 大半がルルーシュへの告白に使われたバラだろうが、すべて委ねてくれたのだから嬉しくないわけがない。むしろ愛おしささえ感じる。感激して、涙が出てきた。 (あ・・・そうだ、返事しなきゃ・・) 泣いてる場合じゃない、とシャーリーは気丈に笑顔を作る。 女子が告白にOKの返事をする場合、男子の胸にバラを挿すのだ。そこで初めてカップル成立。同時に、それは他の女子除けにもなる。 花束に交ざっている男子用のバラの中でルルーシュが元々持っていたものはどれか訊くためにシャーリーが顔を上げると、ルルーシュが他意のない晴れ晴れとした表情で シャーリーが抱えるバラを見ていた。 そして、こんなことを云うのだ。 「助かったよ。処分に困っていたんだ」 「えっ?」 処分 衝撃を受けたシャーリーは、しかしそれよりももっと決定的なものを見てしまった。 ルルーシュの手に残った、一輪のバラ。茎が短く、リボンが結ばれたそれこそがルルーシュに配られたバラであることは明らかで。 「終了まであと1時間か・・・じゃあシャーリー、また」 「えええっ!?」 告白の返事どころか、告白すらされていない。 それ以前に、すると決めた告白すらしていない。 何事もなかったように去っていくルルーシュをしばらくポカンと見送ってしまったシャーリーは、我に返ると同時に、遠ざかる背に思いきり叫んでいた。 「〜〜〜〜〜ルルのばかああぁッ!!!」
『告白の日 side:S』 2013/ 6/22 up |