告白の日 side:K




 こんなところで一体何をやっているのだろうか、と。
 カレンは盛大に溜息を吐いた。


 ブリタニアでも学校は学校だから、と扇に諭されて1週間ぶりに登校してみれば、午後の授業が変なイベントにすり替わっていたのだ。愚痴のひとつも零したくなるというものだろう。
 一体何なのだ、告白の日って。
 いや、どういうイベントなのかは解っているけれど。
 カレンは手元のバラを弄る。
 小一時間前、イベントの詳細も知らされないまま問答無用で配られたバラ。茎が長く、もちろん女子全員に同じものが配られていた。
 一方、男子に配られたのは茎が短くリボンが結ばれたものだ。
          告白の日。
 ひどく馬鹿馬鹿しいネーミングのイベントは、その名の通り告白をするためのイベントだという。
 男子から告白してOKだった場合、女子はリボンを外してバラを男子の胸ポケットに飾り、男子から腕なり髪なりにリボンを結んでもらう。また、女子から告白するときは茎の長い バラを男子に渡し、OKだった場合はリボンつきのバラをプレゼントしてもらうというもの。ちなみに返事がノーだった場合はバラを渡すだけで終わり、だそうだ。
 告白に付き物の言葉が一切なくても想いを伝えられることから、学生には男女とも概ね好評のようである。
 が、カレンには迷惑でしかなかった。
 開始早々よく知りもしない男子からバラを押し付けられて辟易していたところに、次の男子がやってきて。
 ただでさえ軽く苛立っていたカレンは一気に白けた気分になり、体調不良を理由にその場を辞退した。逃げ込んだ先は校庭の植木の影だ。何で私が逃げなきゃいけないのよ、と 思わないでもない。しかし病弱なお嬢様が「鬱陶しいのよ! お遊びに付き合ってる暇はないわ!!」と目をつり上げて一喝するわけにもいかないことくらい、カレンだって心得ている。
 カレンは鬱々とした気分を振り払うように短く息を吐き出した。
 そのときだ、茂みの向こうから声が掛かったのは。


「君、大丈      なんだ、君か」


 途中で声色が変わったのは、気分が悪くなって蹲っている生徒ではないことに気付いたからだろう。
 カレンが振り返ると、やはり想像通りの人物がカレンを見下ろしていた。


「・・・・・ルルーシュ」


 いけ好かないクラスメイト。
 猫かぶりで口だけの生徒会副会長。
 カレンが病弱ではないことを知る要注意人物。
 そんなに嫌そうな顔をした覚えはないが、カレンの顔を見たルルーシュはわざとらしく肩を竦めた。その態度がまた癪に障る。ルルーシュが両手に抱えるバラに目をつけて、 カレンはフンと鼻を鳴らした。


「お忙しいのに見回りもしなきゃいけないなんて、副会長サマは大変ね」


 カレン渾身の嫌味にルルーシュは眉を顰め、しかしニヤリと不敵に唇を歪めた。
 瞳には底意地悪そうな光が宿っている。


「煩わしく思っているのはお互いさまじゃないのか」


 君にとってブリタニア人からの好意は迷惑でしかないだろう、と続いた言葉は疑問形などではなく、事実として確信している響きだった。
 カレンは思わず息を呑む。しかしその顕著な反応に言及することなく、ルルーシュは一瞬だけやさしい笑みを浮かべて気障ったらしく踵を返した。
 ひとり残されたカレンはギリギリと奥歯を噛むしかない。
 アンタに私の何が解るっていうのよ、と悪態を吐いて、しかしルルーシュの云う通りだと気が付いた。
 ブリタニア人など、たとえそれがあの侵略と直接関係のない学生身分であっても恋愛の対象になるはずがない。 おまけに彼らはカレンが演じる偽物のカレンに想いを寄せているのだ。 本性見抜けないクセに何が好きよふざけんじゃないわよお生憎サマ、と怒りさえ覚えた。       それをルルーシュは正しく見抜いた。 いや、ルルーシュに見抜かれてしまった。
 くやしい、とカレンは唇を噛む。
 拳を強く握ると、手の中でパキッ・・と音がした。


「・・・・あ」


 やってしまった。
 配られたバラだけでなく男子から押し付けられたバラの茎も見事に折れている。 八つ当たりなどするつもりはなかったのに。よりによって罪のないバラを折ってしまうとは。
 カレンは喉の奥で唸る。


(好き、かぁ・・・)


 好意を寄せられるなら、カレンのことをよく理解して、ありのままを受け入れてくれる男性でなければ嫌だと思う。 もっと云えば、頼りになって、優しくて、周りを引っ張っていける        例えば、ゼロみたいな。


(や、やだ・・違、わないけど、・・・でも)


 黒の騎士団を率いるリーダー、ゼロ。
 掴みどころがなく非情な作戦をも実行する彼は、しかしカレンに気遣いを見せたこともあった。つまり根っからの人でなしというわけではなく、むしろ計画性もなく反ブリタニア活動を 続けていたカレンたちの救世主であり、戦闘時における的確な指示は非常に頼りになるし、人心を掴む天才的なカリスマ性もある。
 カレンにとってゼロは尊敬できる存在だ。
 憧れている。少なからず好意を抱いている。それはカレン自身否定のしようがない。
 でも、ゼロからバラを贈られて嬉しいかといえば、そうでもないような気もするのだ。
 いや、嬉しいとは思うだろう。しかし恋情を告げる華をもらう場面を想像して得られる嬉しさより、紅蓮のキーを託されたときを思い出して込み上げる嬉しさの方が何倍も強く大きく カレンを揺さぶるのだ。
 最も信頼していると。専用機でエースの座を任せられるのはカレンだけだと。ゼロにそう思ってもらえることが今のカレンにとって一番の歓びだった。
 今は日本を取り戻せればいい。兄の仇を討って、母を幸せにできればいい。
 恋愛など、二の次三の次でいい。


         よしッ!」


 カレンは勢いよく立ち上がる。茂みから出た後はいかにも病弱なお嬢様然とした表情を心掛けたが、ピンと伸びた背筋には並々ならぬ決意が表れていた。
 必要ないものは切り捨てていく      ひたすら前だけを見つめて歩くカレンの手には、すでにバラの影すらなかった。












『告白の日 side:K』







2013/ 5/28 up