告白の日 side:M




 それはとある放課後のことだった。
 グラウンドの喧騒はクラブハウスまで届かない。時期的に運動部の大会直前特有のピリピリした空気とも縁遠く、つまり学園全体が少し緩んだ雰囲気に包まれていた。
 もちろん生徒会も例外ではなく、有体に云えば暇だった。
 だからこそ部費編成や文化祭・体育祭の運営以外にも生徒会はイベントの企画運営に力を入れているのだが、最近は生徒会長に斬新な閃きが降りてこなくて生徒会も中だるみしていた。
 別にそれで構わないと思っているメンバー多数。
 絶対に許せない生徒会長ひとり。
 今日もモヤッとした気持ちを抱えながらミレイが生徒会室へ行くと、中にはシャーリーしかいなかった。
 定位置に座っているカワイイ後輩。携帯電話を熱心に見ている彼女の頬が緩みまくっているものだから、ピンときたミレイはにんまりと笑って背後からシャーリーに抱きついた。


「なーにしてるのッ!」
「わッ・・・、会長っ!」


 驚いたシャーリーの手から携帯電話が滑り落ち、テーブルの上に転がる。「も〜」と頬を膨らませるシャーリーが拾い上げる前にチラッと見えたその液晶には、 しかしミレイが想像した人物は映っていなかった。
 これは        ・・・




「・・・結婚式?」




 画面に映っていたのは、しあわせそうに微笑む花嫁と誇らしげな花婿のツーショットだった。
 どちらもミレイの知らない人物だ。しかし女性の方はどことなくシャーリーに似ている。訊いてみるとやはりシャーリーの従姉で、相手の男性がエリア11で働いているため 式もこちらで執り行ったという。


「それがすごく素敵なお式だったんですよ! 演出も凝ってて    


 なんでも、バージンロードの脇に座った参列者にバラが配られ、入場した花婿に手渡したらしい。花婿が集めた花束は次いで入場してきた花嫁に贈られブーケとなり、 その中の一輪を花嫁が手ずから花婿の胸に挿してあげる、という演出だ。
 これは花屋などなかった中世ブリタニア時代、男性が意中の女性へ求愛するために道中で花を摘み、女性へ 捧げたことに準えているという。そして男性の好意を受け入れる返事として女性は受け取った花束から一輪選び、男性の胸に添えたそうだ。


「すごくロマンチックだと思いません?」


 そう話すシャーリーはうっとりと夢見心地である。その先に誰を妄想しているのか、今度こそ間違えようもなかった。
 ピピピピーン、とミレイに妙案が舞い降りる。
 熟考などという言葉は存在せず、次の瞬間には堂々宣言していた。




       よしっ、次のイベントは『告白の日』に決定よッ!!」




 ぽかんと口を開けてミレイを見遣ったのはシャーリーである。「告白の日・・?」と鸚鵡返しに訊く声には馴染みがない言葉に対する純粋な疑問が含まれていた。
 しかしミレイはシャーリーの戸惑いなど一切意に介さない。今にもクルクルと回り出しそうなほどご機嫌である。


「ふっふ〜ん、いい話聞いちゃった〜」
「え、っと・・・会長、もしかして・・」


 これまでの話の流れから考えると、答えはひとつしかないだろう。
 シャーリーは困惑しているような、期待しているような、複雑な表情を浮かべる。恋に恋する年頃の少女は、やはりこの手のイベントに興味があるのだ。
 つまり、この場にはミレイを止められる人物がいなかった。




「もっちろん! アッシュフォード学園でもやるわよ、中世のロマン溢れる告白をッ!!」












『告白の日 side:M』







2013/ 5/ 3 up