夫婦以上恋人未満




 ふと目を覚ますと、視界が不明瞭だった。
 ただ暗いのではない。首から上が狭いところに押し込められているような圧迫感もある。
 いまだ半分眠った頭でたっぷり3秒ほど考え込んでしまったが、何てことはない、ベッドを共有している女に正面から頭部を抱えられているだけのことだと気が付いた。
 以前であれば驚いて、過剰なまでに反応していただろう。しかしC.C.との心的距離も縮まった今、どうせぬいぐるみと間違えているんだろう程度に考えて、奇声を上げることも 無理矢理抜け出すこともしなかった。
 まだもう少し眠っていたい。
 それに、人類の敵を演じている代償として他人のぬくもりに飢えているというのもある。
 有体に云うと、この状況はなかなか心地良かったのだ。
 吸い込む空気が甘い。ピザばかり好んで食べるくせに、C.C.の肌は甘い匂いしかしない。肌蹴たシャツから覗く胸はやわらかく、ほっとするくらい温かかった。
 コイツも女だったな、と何度目かの認識をしたか、それともしなかったか。
 括れた腰に腕を回し、肺いっぱいに甘い空気を満たしながら再び瞼を下ろした。










「そこまでしておいて何もないって、逆にどうかと思うんだけど」




 朝、時間になっても姿を見せない皇帝を探しに彼の寝室までやって来た騎士は、信じられない光景を目の当たりにした。
 めずらしく熟睡中のルルーシュ。
 その頭を胸に抱えて眠るC.C.。
 薄い上掛けを剥いでみれば、ルルーシュは下衣のみ、C.C.はワイシャツに下着のみの格好で。しかもC.C.の細腰を抱くルルーシュの左手はワイシャツの下に潜り込み、 絡み合った脚は恋人たちのそれだった。
 しかし、それより信じられないのはふたりの云い分だ。
 何となく怒りを覚えて叩き起こして問い質してみれば、ふたりは口を揃えて云った。 曰く、「コイツとはそんな関係ではない」と。 そしてついでにルルーシュがあの寝姿に至った経緯を説明してくれた、というわけである。
 事実、ふたりは恋人どころか身体の関係さえ一切ない。
 だからこそスザクは素直に呆れた。そしてこぼれ出たのが先の台詞だ。
 意味が理解できないのであろうルルーシュは訝しむように眉根を寄せ、一方のC.C.は意味ありげに口角をつり上げる。


「仕方ないさ。ルルーシュはまだお子様だからな」
「・・なるほどね」
「おい、誰が子どもだ! スザクも納得するな!」


 こんなふうに云われる理由を知らずに癇癪を起こすあたりが子どもだというのだ。スザクとC.C.が目配せして頷き合うと、ルルーシュは益々臍を曲げた。
 ・・・・・まったく、大国をひっくり返すほどの卓越した頭脳を持ち、非情なことも平然とやってのけるあくどい性格をしているクセに、 ときどき初心な乙女みたいにピュアだなんて、ありえない。
 いっそ、そういう事態に陥ってしまえばいいのにとスザクは思う。
 C.C.はC.C.で「今さら迫られても困るがな」とか涼しい貌で云っているが、実際にそうなったら満更でもなく受け入れるのだろう。         本当に、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。いまだベッドの上で口論を続ける悪逆皇帝とその実質的な皇妃に対してスザクがそう感じたからといって、 罪にはならないはずだ。
 呆れているのではないし、怒っているのでもない。しかし釈然としない何かを抱きながら、それでもスザクは真面目くさった貌でこう告げた。




「イチャつくのは構わないけどさ、少しは時計も見てくれないかな」












『夫婦以上恋人未満』







2013/ 4/16 up