花酔ひ C.C.はこれまでピアスと縁がなかった。 なにせ、弾痕が数時間できれいさっぱり再生する身体なのだ、ピアスホール程度ではピアスを外した瞬間に穴が塞がってしまうだろう。自傷癖などないC.C.は毎回痛い思いをしてまで ピアスを付けたいとも思わないし、宝飾品全般に興味が薄いものだから、C.C.にとってピアスはまったく別世界のモノだった。中華連邦で踊り子に扮したときでさえピアス ではなくイヤリングだったくらいである。 ・・・・・まぁ耐えられない痛みではないから、必要があれば吝かではない、とは思っていたのだが。 C.C.は鏡の中の自分をまじまじと見つめる。 ルルーシュが用意したC.C.の新しい衣装。今や皇帝とその騎士となった少年ふたりの衣装と意匠を統一しているだけでなく、スカート部分を外せばパイロットスーツにも なる優れもののドレスには、機能もへったくれもないサークレットがセットになっていた。 初めはサークレットではなくピアスという案もあったと聞いた。 推したのはスザクだ。しかしルルーシュが却下して今の形に落ち着いたのだという。 お前たち、この重大な局面にきて一体何の話をしているんだ、とC.C.は呆れた。・・・が、根を詰めずに多少の息抜きをしてほしいとも思っていたから、余計なことは云わなかった。 むしろ気になったのは、その話をしたときのルルーシュの表情だ。 苦虫を噛み潰したような表情。しかしその中にC.C.を気遣う眼差しが含まれていたから、C.C.はルルーシュの想いを知った。 C.C.の身体を傷付けたくないのだ、ルルーシュは。それがたとえどんなに小さな傷でも。 守られている実感が肌の上を滑り、C.C.は小さく身震いをした。耳が熱い。しかし男ふたりが気付いた様子はなく、内心で安堵の息を漏らしたのを覚えている。 それから3日後に仕立て上がってきたのが、このドレスだ。 特徴的なサークレットが付いた、皇宮でのC.C.の正装。黒い翼を広げているようにも見えるソレは、魔女たるC.C.には確かに相応しいデザインかもしれない。 ルルーシュがどんな意図でサークレットを付けたのかは不明だが、まさかコンソート・クラウンのつもりとは云わないよな・・、などと考えて、C.C.は慌てて考え自体を四散させた。 使用人たちから皇妃扱いされていることは知っているが、自分でそんなことを考えるのは違う気がするし、それを望んでいるようで嫌だ。 C.C.は食い入るように鏡を見つめた。そっと手を伸ばしサークレットに触れると、鏡の中の女も無表情で倣う。 外してしまおうかと思った。 でも、できなかった。 動作は容易だが、ルルーシュが示した『傷付けたくない』という優しさで否定するようで、手はそれ以上動かない。 結局、確かめるようにサークレットをなぞるだけに終わった。 鏡の中の女は笑わない。 まるきり人形めいた無表情だ。 これがあの男の傍らに立ったときにどう変わるのか、あるいは変わらないのか、ある意味見物だな・・、と。自らのことであるにも関わらず、C.C.は他人事のように考えた。
『花酔ひ』 2013/ 3/21 up |