「ふぅン、よかったじゃないかァ」 ブリッジに向かう途中でラクシャータに会ったC.C.は、そのときようやく先日の礼を述べることができた。 ここ数日斑鳩に留まっていたルルーシュが、C.C.を外に出したがらなかったからだ。・・・いや、無理強いされたわけではないのだが、そんな雰囲気が漂っていた。 ナナリーが傍にいない寂しさも手伝って、余計に誰かを構いたい衝動に駆られているのだろうと、C.C.もついルルーシュに合わせてしまったけれど。 ラクシャータはそのあたりもすべてお見通しなのだろう。煙管を吹かす横顔がそう語っていて。 C.C.はそっと息を吐いた。 海に面したデッキ。 雲ひとつない空から陽光が降り注ぎ、穏やかな潮風がそっと頬を撫でていく。 こんなに穏やかな気持ちでこの景色を眺める自分も、ルルーシュの傍に居る未来も、出逢った当初は想像すらしていなかった。 それがいつしかそうありたいと望むようになり、ついにはそれが許される立場になったのである。 ようやく自然に受け入れられるようになってきたが、今でも面映ゆいような気分になることもあるし、シャーリーのことがふと脳裏を掠めることもある。 今も、瞼を閉じれば彼女の泣き顔が浮かぶ。 ここで陽光を浴びるに相応しいのはシャーリーだったのではないかと、今でも考えてしまうのだ。 ルルーシュが知ったら怒るに違いないから云わないが、たぶん、完全に忘れ去ることはないだろう。あの少女の涙なくして、今の自分はないということを。 「別に私は、・・・遠くから見守るだけでよかったんだがな・・」 「それ、云われる方は惨めになるもんよォ? それにキリがないしィ〜? 人間なんてみんな知らないウチに誰かを傷付けてるんだからさァ」 「・・・・・・・・」 シャーリーのことはあまり触れずに経緯を説明したから、ラクシャータは自主的に『ゼロが浮気をしていた』と解釈したらしい。そう明言されたわけではないが、「痴情のもつれは 厄介だからねェ、ちゃんと口止めしたのかい?」と心配されたくらいだから、そういうことなのだろう。 もっとも、ルルーシュにとって不名誉な誤解を正さないのは、別に今回の一件を怒っているとか根に持っているからではなく、ゼロの正体にまで話が及びかねないからだ。 ・・・結果だけ見れば当たらずも遠からずな見立てだと思った所為もあるが。 「 他人と関わって生きていくということは、そうやって小さな罪をいくつも重ねて生きていくということなのだろう。 人ではなくなった身の上でも、それは同じこと。 不老不死だ、魔女だなどと境界を引こうとしても無駄なのだ。 C.C.は、いま、ここで生きているのだから。 「しあわせかい?」 「・・・・ん・・?」 しあわせか、と改めて訊かれると困ってしまう。 生まれてこの方しあわせだった記憶がないC.C.は、指標となるべき『しあわせ』の感覚そのものを知らない。 それでもC.C.はこたえを探し続けた。 愛されたい ラクシャータの方を見遣ると、碧色の瞳が宥めるようにC.C.を見ていた。 C.C.は困ったように小さく頷く。それに応えて満足そうに煙管を吹かす、そのラクシャータの態度はもう完全に弱輩の小娘に対するそれだ。非常に不本意ではあるが、 ラクシャータ相手では仕方ないとC.C.は諦めることにした。 キラキラと光を返す海に視線を戻す。 この海の向こう、エリア11で今頃ルルーシュは何をしているのだろうか。 「・・・・・・・・」 死ぬことが望みだ、などと。ましてその裏に隠した真の願いなど、さらに打ち明け難かったものだから、 余計な世話を焼いた記憶の管理人にはあとで文句を云いに行くつもりだけれど、ルルーシュへの隠し事がひとつ消えて安堵しているのも事実だった。 あとはマリアンヌのことや神殺しのことを打ち明けるタイミングが重要だ。・・・・・が、それもルルーシュが帰ってこなければ始まらない。 自分がさみしいからだとまだ素直に認められないC.C.は、いろいろと理由を付けながら、それでも多忙な男に『早く戻ってこい』と念じていた。
fin. 2012/ 5/ 28up |