ルルーシュは耳を疑った。 シャーリーのことを何か云われるのは想定済みであったし、ナナリーを一番に想っていることを知っているC.C.がそれを気に掛けるのも納得できた。 しかし、「好きだなんて・・・初耳だ」と云われるとは、まったくの想定外で。 「・・・・・はぁ?」 多少の怒りも手伝って、出た声は地を這うような低いものになってしまった。 意味もなく人を傷つけるようなことは云わない女だと認識していたからこそ、裏切られた感覚に陥る。あれだけ云ってやっただろ、と腹の底で苛立たしく吐き捨て、 ルルーシュはC.C.を見下ろした。 未だ不安に揺れている瞳。気の強い琥珀が潤んで蜂蜜色に蕩けている。 ・・・何をそんなに不安に思う必要があるのだろうか。 「云っただろ」 「・・・・聞いてない」 「云ったはずだ、必要だと」 「そんなの・・誰にでも云ってるじゃないか」 「え・・」 拗ねたような言葉が意外だった。 そんなことを気に掛ける女だとは知らなかった。 「 言葉がほしいと云うのなら、それで安心できるのなら、何度云ってやってもいいと思う。 愛とは惜しみなく注ぐものであると認識し、実際に行動しているルルーシュだが、しかしその対象となるのは今までナナリーだけだった。 だが、C.C.はすでに『特別な存在』だ。以前との差にC.C.がどれだけ戸惑ったとしても、ルルーシュ流の方法で幸せにしてやるのだと決めている。 「云っただろ、C.C.。俺は、俺の願いもお前の願いも叶えると」 ハッと目を瞠ったC.C.は、すぐに貌を歪めた。白い顔がさらに色を失う。 「私の、願いは・・・」 「違う。俺が叶えてやるのは、お前が最初に望んだ、本当の願いだ」 「ッ、・・」 C.C.が何を云おうとしたのかは容易に想像できた。 願いは、『死ぬこと』。 悠久の刻を生きてきた魔女は、しかし誰からも存在を望まれたことがない。 不老不死の肉体に対する底知れぬ恐怖。加えて契約者はギアスの暴走に動揺し、C.C.への不信感を募らせ、最終的にはいつも魔女の断罪に往き付くのだろう。 それがC.C.にとって過酷な日々だったことは疑いようもない。幼いころに望んだ、本当の願いを駆逐するほどなのだから。 「云っておくが、契約は関係ないからな」 C.C.を腕に抱いて、あのとき夢を見た。 夢、と云うよりも精神接触と云うべきか。気付いたら見知らぬ風景の中に立っていた。それがC.C.の記憶を再生した一場面だと知ったのは、足枷を付けた少女が ルルーシュの身体をすり抜けて倒れた後、黒い拘束衣の女が現れてからだ。 女はC.C.そのものでありながら、C.C.とは似て非なる存在だった。 感情の欠片も見えない無表情に、起伏のない低音。自らのことを語るにしては客観的すぎる物云いは、ルルーシュの知るC.C.のそれとは一線を画していた。 同じ記憶を共有しているから同一人物と位置付けるべきなのか、どちらが『C.C.』の核であるのか、ルルーシュには判らない。しかし、黒拘束衣の女がルルーシュに 語ったことが非常に重要な内容だったことは確かだ。 C.C.の本当の願い そう聞かされたとき、意外に思うのと同時に、納得もした。 感謝の言葉ひとつ与えられただけで涙を流す女だ、それ以上に深く、あたたかい繋がりに餓えていたことは疑いようもない。 「C.C.」 女の頬をすべり落ちた涙を唇ですくい上げ、至近距離から見下ろす。 次から次へと溢れる雫。女の中でずっと燻ぶっていた蟠りが押し流されているのか、C.C.の瞳から魔女の昏い影が薄れていくのが見えた。 吉兆だ。このまま満たし尽くして、何も不安を感じない女にしてやりたいと思う。 「だから、 その瞬間、ほろりと新たに涙の粒が落ちた。 あるいはそれが最後の蟠りだったのかもしれない。小さく、本当に小さくC.C.が頷いたのを見て、ルルーシュはようやく肩の力を抜いた。 C.C.をゆっくり抱き寄せ、腕の中に収める。 細いくせに驚くほどやわらかく、しかし確かに生命が宿る身体。腕の中にすっぽりと収まってしまうあたりがまた愛おしく感じる。 おずおずと背に回された細腕にえも云われぬ高揚感を覚えたルルーシュは、恋人と呼べる存在を手に入れたことをようやく実感し始めていた。
2012/ 5/ 9up |