エリア11からの帰路は、ホッと安心してしまうくらい気が軽かった。 直前に振った少女と狭い機内に二人きりという状況はさすがのルルーシュでも耐えがたかったのだ。しかもあの密着度合は、仕方がないこととはいえ厳しかった。 シャーリーも同様だったに違いない。 紅蓮で送らせてもよかったのだが、慣れない者が長時間移動するのに騎乗型のシートは向かない上、紅蓮は蜃気楼よりもステルス性能に劣る。今回は シャーリーを無事にエリア11まで送り届けることが最優先事項であって、ブリタニア側に感知されては困るから、 結局ルルーシュが蜃気楼でシャーリーを送り、紅蓮はブリタニアの警戒網ギリギリのところまで護衛についた、というわけだ。 戦いに巻き込みたくないと云ったルルーシュに対し、シャーリーは学園に戻ると答えた。 夜明けを待ってからでもよかったのだが、「実はお母さんのことがずっと心配だったの」と眉尻を下げるシャーリーの願いとあらば叶えないわけにもいかない。 だから発着場にしている水族館に咲世子を呼び出し、その後の護衛を任せてきた。 「私、これからもずっとルルの味方だから。知ったこと、誰にも云わないから。・・・・・だから私の記憶、消さないでっ!」 シャーリーの、ひとつ目の願い。元より記憶を消すつもりなどなかったルルーシュは、その言葉に衝撃を受けた。 自分の都合で掛けたギアスがシャーリーの心を深く傷付けていたことを、改めて思い知らされたからだ。 ギアスに翻弄され続けた彼女。 ブリタニアにすべて話す、と。もしそう云われていたら再び記憶を奪わなければならなかった。そう思うと罪悪感が募る。 シャーリーがそれを武器に迫る女性ではなかったからよかったものの、第二第三のシャーリーを生まないためにももっと気を配らなければ、と改めて実感させられた 瞬間でもあった。 『 通信を伝える電子音に続いた、機械越しの声。 後ろを航行するカレンからの突然のコンタクトに、何か問題でも発生したのかと考えたが、そうではなかった。 『アンタのこと、ちょっと見直した。いつもみたいに調子のいいこと云って、シャーリーまで取り込むんじゃないかって思ってたから それは思いがけない言葉だった。良い意味でも、悪い意味でも。 カレンに求める一番の役割は騎士団のエースであるから、正直なところルルーシュ個人に対するカレンの評価がどうであっても個人的には別に何とも思わない。 それでもカレンが伝えてくれた善意を無下にすることはできず、素気なくではあるが「それはどうも」と返した。 「・・・・・いや、君にも迷惑を掛けたな」 斑鳩の中でシャーリーが頼れた人間はカレンだけだ。C.C.も入れ替わりで世話になっていたようであるし、後に続けた感謝の言葉は純粋な気持ちからだった。 それに対して「べ、別にいいわよっ」以下、何やらモゴモゴと言葉を並べるカレンを不思議に思いつつ、ルルーシュは溜息をひとつ吐き出す。 シャーリーの件が一段落した今、残す問題はC.C.だけだ。 連れ戻すことには成功した。しかしそれは『とりあえず』でしかなく、C.C.は渋々従ったに過ぎない。 C.C.はいつだって、ときにはルルーシュ自身でも気付かない本心を正しく酌んでくれた。ルルーシュが本気で望むことには黙って従ってくれた。 だからこそルルーシュの想いを知りながら釣れない態度を取り続けるC.C.の真意が解らないのだ。 あと少し、けれど決定的に何かが足りない。 その『何か』をどうやって吐かせるか、非常に神経を使うところである。 「 ジェレミアが寝返ったことにより制圧できたギアス嚮団。惜しくもV.V.には逃げられてしまったが、有益な力を得たと同時に、表舞台に出ることのないブリタニアの戦力を 殺ぐことに成功した。 つまり、今は戦略を練り直さなければならない重要な局面なのだ。しかし、それがままならないというのが面白くない。 はっきり云って、C.C.にばかり時間を割いている余裕はないのだ。 しかし、C.C.に関しては今このタイミングを逃すわけにはいかず、かといって手早く口を割らせようと強引な手段をとれば 今度こそ永久にC.C.の心は手に入らなくなるだろう。それだけは絶対に避けるべきである。 「・・・・・・・・」 C.C.の秘密主義をここまで煩わしく思ったことはなかった。 しかも感情を殺すのに長けたC.C.のことだ、どうせまた知らぬ存ぜぬの澄まし貌に戻っているのだろう。そんな女に対して、どう手を打てばいいのか。 この手の抽斗は少ないし、そもそも手の内をすべて晒した状態で勝負に臨むのだから、戦略も戦術もあったものではない。 はっきり云って、お手上げ状態だ。 蓬莱島到着まで残り12分。
2012/ 3/17 up |