眠れない夜を、もう何度過ごしただろう。


 初めては父親が死んだときだった。
 泣いて、雨の中で想い人に縋って、タクシーに乗せられて家に帰り着いて・・・・・しかし自分以上に母親が弱っていたため、宥めるのに必死だった記憶しか残っていない というのが正直なところだ。


 2度目はゼロの正体を知ってしまったとき。
 ルームメイトに怪しまれないようにベッドに入ったけれど、『どうして』ばかり考えてしまって、ちっとも眠れなかった。出口のない迷路の中をグルグルと 彷徨っているような、どうしようもない絶望が目の前に広がっていた感覚を今でも覚えている。
 あのときはルルーシュのギアスによって記憶を失ってしまったけれど、そうしてもらわなければシャーリー自身どうなっていたか解らないくらい混乱していた。


 そして3度目が、いま。
 シャーリーは、ただひたすら待っている。




 悩み事やつらい事があったときに眠れなくなったら大人になった証拠、と聞いたことがあるけれど、そんなのは嘘だ。
 部屋を提供してくれているカレンは少し眠そうで、それでも付き合ってくれる彼女に感謝しているけれど、「付き合わなくていいよ。休んで」とは 云えないのだから。




 ルルーシュがカレンの部屋を訪れてから、まだ10分も経っていない。
 もっと時間が経っているような気がするが、時計の針は嘘を吐かない。
 C.C.を捜している、と。シャーリーにも後で話がある、と云い残していったルルーシュ。・・・・・そんなの、もう話の内容すべてを 云ってしまったようなものだ       そう思ったのに云えなかったのは、ルルーシュが仮面だけを外したゼロの恰好だったため気圧された所為もあるし、 ルルーシュの口から真意を聞くまでは希望を捨てたくないと駄々を捏ねている所為でもある。
 「まったく、何なのよアイツ」とブツブツ文句を云っているカレンに曖昧な苦笑いを返して、それからシャーリーは小さく息を吐いた。
 今頃ルルーシュは何をしているのだろうか。
 C.C.を捜し出して、告白しているのだろうか。
 好きだから、ルルーシュには幸せになってほしい。そう願いながらも、うまくいかなければいいのにと考えてしまう自分がいて、落ち込んだりもした。




 それからどれだけ待っただろうか。
 不意に鳴った呼び出し音。弾かれたように反応したカレンが迎え入れたのは、やはりゼロとC.C.だった。
 思わずベッドから立ち上がる。文句を云いたそうなカレンのことなど無視して近づいてきたゼロを正面から迎えるのに、どれだけの勇気を要しただろう。 震える両手を祈るように組んで、仮面の下から現れたロイヤルパープルの瞳を見つめた。


「云われた通り、待ってたよ。話ってなに? ルル」
「・・・・・シャーリー、俺は・・」
「ちょっ、いきなり始めないでよ!」


 私たち外で待ってるから、と云ってカレンはC.C.と出ていこうとする。
 しかし、シャーリーにも心に決めていることがあった。        ルルーシュの話はひとりで聴かない、と。


「いいの、カレン。ここに居て」


 今はルルーシュと二人きりになるのが怖い。・・・いや、何かされるとか何かしてしまうと危惧しているのではなく、自分で自分を見失ってしまうのが怖いと思うのだ。
 だから誰か同じ空間に居てほしかった。そうすれば意識が多少はそちらの方にもいって、冷静でいようとする自分を保てるかもしれないから。 驚いた貌のカレンに小さく頷いて、巻き込んでしまったことに心の中で「ごめんね」と謝る。それからルルーシュに視線を戻した。
 深呼吸、ひとつ。


「ルル、聞かせて」
「あ、あぁ・・・」


 しかし、どれだけ心の準備をしていたつもりでも自然と緊張してしまう。
 それが伝播したのか、表情を硬くしたルルーシュは改まった声で言葉を紡いだ。




「シャーリー、・・・俺の味方でいようとしてくれたこと、本当に嬉しかった。ありがとう。・・・・・、・・・でも、君をこの戦いに巻き込みたくないんだ。 もっと穏やかな、やさしい世界でしあわせに暮らしていてほしい。君は、大切な・・・・・友人だから」




         “友人”。それがルルーシュの答え。
 解っていたこととはいえ、ズキンと胸が痛む。
 それでも取り乱さずに聴いていられたのは、ルルーシュもシャーリーだけを見て話していたから。 そんな彼の言葉を一言一句逃さずに聴こうとしていたからかもしれない。


「そっか・・」


 他人と深く関わろうとしないルルーシュにとって、『大切な友人』も充分すぎるくらい特別な存在だ。それをルルーシュ本人に認めてもらえたのだから、 ただ「ごめん」と云われるよりずっといい。そう自分に云い聞かせて涙を封じ込めた。
 少なくとも、今は泣いてはいけない。
 どこか苦しそうな貌のルルーシュにシャーリーは笑いかける。




「ルルの好きな人は、C.C.さんなんだね」




 完璧に笑えている自信はあった。しかしそれが今にも泣き出しそうな笑顔であったことを、シャーリーだけが知らない。
 それでもルルーシュは偽らなかった。「      ああ」と、確かな声で肯定する。
 シャーリーとしては逆にそう答えてくれて嬉しかった。ヘタに誤魔化されるより、ずっといい。




「あのね、ルル・・・お願いがあるの」




 次第に足音を立てて近づいてくる失恋の実感。どうしようもなく押し潰されてしまうその前に、シャーリーはルルーシュへふたつの願いを伝えた。












2012/ 3/ 5 up