その銀弾を受け止めたのは、黒衣を纏う少女だった。


 飛び散るは、緋。
 舞うは、萌葱。


 誰もが息を詰まらせる中、少女の痩身は男の腕の中へと崩れ落ちる。


 銀弾を放った敵を仕留めたのは、まわりに居た人間だった。
 少女が身を呈して庇い、護った男は、少女を抱きとめたまま動かない。少女の名を呼ぶことも、溢れゆく緋を止めようともしなかった。
 ただ、少女を抱きしめるだけ。


 失った声を取り戻したのは、まわりの人間たちだ。
 早く止血を・・C.C.・・大丈夫か・・ゼロ、指示を・・脈は・・心臓を打たれたんじゃ、もう・・
 しかし、そのいずれもが虚しく過ぎ去る。


 ふたりはまるで、隔離された時間を刻んでいて・・・






         C.C.・・」




 男がようやく仮初の名を呼び、少女の頬に触れた。
 異変が見られたのは、その時だ。




「・・情けない、声を・・・出すな」




 白磁に青白い影を落としていた睫が揺れ、琥珀の瞳がゆっくりと姿を現す。
 今度こそまわりは完璧に動揺した。銀弾に貫かれた部位と流した生命の水の量を鑑みれば、即死していても不思議はなかったのだから。




「お前・・私が服を黒にした理由、分かってないだろう」




 だが、視線を一身に集める少女は構わずに言葉を続ける。それだけでも十分異様な光景であるのに、少女を抱きしめたままの男の、お前の思考は 理解の範疇を超えている、という投げやりな返事も異質なものであった。
 ほんの少しだけ呆れたような笑みを滲ませながら、少女は弾痕をなぞる。


 白い指に纏わりつく、鮮烈すぎる血の色。




 やがて颯爽と立ち上がった少女は、男を見下ろしながら高らかと言い放った。
            血で汚れても目立たないだろう、と。


 それは、これからも男の身代わりになって死を受け入れるという意思の現れで。






 仮面の下で男が顔を歪めたことを知りながら、それでも少女は気付かぬふりをした。












紫陽花


TURN16以降が怖いです。
不死でなくなったから、余計に。




2008/ 7/21 up