とても素敵なお話を聞いたんですよ、とナナリーは笑った。その笑顔がとても嬉しそうだったので、ルルーシュの表情も自然と穏やかなものになる。 打倒・ブリタニアを誓い、過酷な二重生活を送るルルーシュにとって妹こそが唯一の癒しであり、救いなのだ。 ゆっくりと紡がれる、とても穏やかな時間。 しかし、そのささやかな幸せさえも無残に散る瞬間というものは必ず訪れるもので。 「お兄さまのお相手は・・・やっぱりC.C.さんなのでしょうね」 ことりと首を傾げて笑むナナリーの無邪気な発言に、ルルーシュの顔は盛大に歪んだ。 その歪みっぷりは人に・・・・特に愛妹に見せられるものではなくて、このときばかりはルルーシュもナナリーの目が見えないことに安堵を覚えたのである。 繋がる糸は 自室に戻ると、そこは暗闇に支配されていた。 いや、数か月前であればそれが正常だったのだが、残念なことに今のルルーシュの日常は正常を逸している。 秘かなる同居人の存在 ギアスという便利な力を授けてくれたことは感謝しているし、そもそも日常が狂ったのはルルーシュ自身がゼロとしてブリタニアへの反逆に心血を注いでいる 所為でもあるのだけれど。 しかし、居着いてしまった女を持て余していることは紛れもない事実で、それがいくら自らを魔女だと豪語する自由奔放な我儘女なのだとしても、 たかが女ひとり巧くあしらえない自分自身への苛立ちは自然と募る。それを正確に把握しているからこそ、余計に気分は下降するのだ。 ルルーシュが舌打ちをしながら照明を点けると、やはりC.C.はベッドの真ん中で堂々と眠っていた。 眠るときは照明を落とすという常識が備わっていたことは嬉しい限りだが、ルルーシュが部屋を空けているときにそれをされると困る。 ルルーシュの不在と照明が消えたことを同時に把握できる者などいないだろうが、誰にどう現場を押さえられるとも分からない。『クラブハウスで怪奇現象』 などと、そんな噂でも立ってしまった日には、夜に部屋を抜け出すのが困難になるだろう。 溜息を吐いたルルーシュは、ベッドの端に腰掛けた。 どうやらC.C.の眠りは深いようで、傍らに来たルルーシュの気配に反応もせず、邪気のない寝顔を晒している。 よくこんな時間に眠れるものだと呆れ半分の視線を落としたルルーシュは、先ほどナナリーと交わした会話をふと思い出して眉を顰めた。 『人はだれでも、運命のお相手と赤い糸で結ばれているんですって』 咲世子から聞いたのだという、運命の赤い糸の話。 なんでも、結ばれるべき運命にある相手とは赤い糸で左手の小指同士が繋がっているらしく、その不可視の糸はそう簡単に切れるものではないという、 所詮は いや、ナナリーが喜ぶのであれば作り話でもまだ価値はあるだろうか。 しかし、まったく信じていないルルーシュ自身のことまで引合いに出され、さらに相手役としてC.C.の名が挙がったとなれば話は別だ。 冗談じゃない、とルルーシュは忌々しく思う。 良くも悪くも、C.C.は共犯者でしかない。 C.C.はルルーシュにギアスを与え、ルルーシュはC.C.の願いをひとつ叶える (そうでなければ、誰がこんなピザ女・・・) 匿ってやるものかと心の中でぼやきながら、ルルーシュは腕を伸ばす。 顔にかかった若草色の髪を払ってやると、くすぐったかったのか、「ぅ、ん・・」と声を漏らしたC.C.は貌を顰めた。しかしそれも一瞬のことで、 すぐに安らかな表情に戻る。 確かに、C.C.との出会いでルルーシュの日常は大きく変わった。これを運命と呼ばずして、何と呼ぶのか。 しかし、赤というのはどうだろうか。 虚構と隠匿とで彩られた、共犯関係。それに見合うのはおそらく、罪に塗れた闇色だ。もしくは、赤は赤でも血に染め上げられたドス黒い赤か。 どちらにせよ、ナナリーが憧れるようなモノとは程遠い。 それが共犯関係の正常。 契約という名の糸で結ばれた、ふたり。 「そうだろう? 吐き捨てるように云い置いて、ルルーシュはベッドから腰を上げた。 のんびりと過ごしている暇はない。一刻も早く、祖国ブリタニアに終止符を打たなければならないのだ。 端末の前に腰を据えれば、類稀なる集中力でたちまち作業に没頭していく。 それからその晩、C.C.を顧みることは一度としてなかった。 fin. 2008/ 9/18 up |