触発されて、飛火して






 C.C.は規則正しい生活と無縁の女である。だから、寝顔を見ること自体は少なくない。
 ただ、夢の中にあっても無表情を貫いているのか、その寝顔の印象は眼を開けているときと大差がなかった。 正面から相手を見据える琥珀の瞳が隠れている分だけ幼く見えるが、それでも無表情と評したくなるような寝顔なのだ。ずっと・・・そう認識していた。
 だからなのだろう。今、非常にめずらしいものを見た気分になっている。


(・・・C.C.が・・?)


 表情を緩ませながら微睡んでいるのだ。それを見るのはナリタ以来なのだから、無理もない。
 だが、今まで忘れていたのが不思議なくらい、眼を惹く寝顔だった。あまりに幸せそうで、あまりに毒気がなくて。そしてあまりにナリタでの姿と 重なるので、もしかしたらまた例の夢を見ているのかもしれないと思い至った。


(こいつの、本当の名前を呼んだ・・)


 俺が知らないヤツの夢。名前を呼ばれたC.C.が嬉しそうに笑みを浮かべるくらいだから、その人物とは相当心を許した間柄だったと推測できる。


(すでに故人だとは思うが・・・)


 その名前や顔どころか、性別すら俺は知り得ない。ナリタで垣間見た記憶の断片だけでは圧倒的に情報が足りなかった。


(だが、可能性としては・・)


 “ 相手が男である可能性は、決して低くない ”       その事実に至った瞬間、心臓に鈍い痛みが走った。 さらには腹の奥にじわりじわりと黒い感情が広がってきて・・・正直なところ、困惑する。腹で渦巻くのは馴染み深い、『怒り』という名の感情だが、何に対して 怒りを感じているのか、自身でも解せなかった。
 ただ、幸せそうに寝ているC.C.を見ていると苛立ちが増すことだけは、明確で。
 俺は、C.C.へと腕を伸ばした。


          夢の中から引きずり出してやりたい、と。


 ただ、それだけを思って。

















fin.

















2008/ 7/ 2 up