アッシュフォード学園高等部の生徒会長ミレイ・アッシュフォードは、自他共に認めるお祭り好きである。


 面白そうなことがあると、たとえそれが些細なことであってもイベント直行便に乗るのだ。 うっかり妙な発言をしようものなら回りまわってミレイの耳に入る可能性があり、全生徒を巻き込んでの大騒動に発展しかねない。 しかも、大騒動を起こすだけの行動力と経済力と発言力を兼ね備えているところがミレイのすごいところであり、同時に恐ろしいところでもあった。


 しかし生徒会長ミレイ・アッシュフォードは、学園の人気者である。


 こちらは本人が堂々と宣言していることではないのだが、ミレイが思いやり溢れる女性であることは周知の事実だった。その思いやりが明るい方向に流れた結果、イベントに 繋がるのだということも。だからミレイは皆から信頼され、慕われているのだ。


 そして生徒会長ミレイ・アッシュフォードは、非常に観察力に優れる人物である。


 思いやりの行動をとるには、人の機微に敏感でなければならない。ミレイは他人の表情や瞳の輝き、声の調子、動作などを感覚で捉えることで、 日常とのずれを肌で感じ取っていた。それは天性の賜物であるかもしれないし、家が没落する過程とともに培われた必然の能力であったのかもしれない。 しかしそんな背景とは無関係に、ミレイは誰かが哀しんだり悩んだりするのを放ってはおけなかった。
 そして、ミレイは今日も気付くのである。






「なぁにリヴァル、悩み事?」


 周囲より一足遅れて生徒会室にやってきたリヴァルを迎えたミレイの第一声が、これだった。
 尤も、リヴァルが疲労感を隠し切れていないのは万人の目に見ても明らかだっただろう。シャーリーとニーナも思案顔だ。しかし、彼の疲労が悩みによるものだと 断言できてしまうところがミレイの強みである。言い当てられたリヴァルはパッと顔を輝かせ、だが次の瞬間には再び視線を逸らした。


「や、大したことじゃないですから」
「ほんとに〜? 聞いてほしいって顔に書いてあるわよ?」
「あー、えーと、ほら・・会長のこと好きすぎてどうしようかと」
「こら、誤魔化さない!」


 急に真面目な顔つきでミレイの手を両手で握りしめたリヴァルを小突きながら、言葉でもあっさりと一刀両断する。8%くらいは本気が混じっていたリヴァルは 今度こそ撃沈した様子で打ちひしがれてしまったが、ミレイはそちらの方に気を回すことなく追及を再開した。


「で、何をそんなに思いつめてるの?」


 しかし、リヴァルは再び視線を逸らす。きっと彼の内側では男の矜持だとか意地だとか、ミレイから見れば「何をそんなこと」と思えるようなことが渦巻いているのだろう。 だけどミレイはそんなリヴァルの内面も大切にしたいと思っている。だから、それらを否定するのではなく、本当に純粋に心の声を聴くための言葉を重ねた。


「私じゃ力にならないこともあるけどさ、でも話を聴くことぐらいはできるじゃない?」
「・・・・・会長・・・」
「だからさー、ほら、お姉さんにドンとぶつけてみなさいって」


 にっこりと笑うミレイを見て、リヴァルの顔が情けなく歪んだ。しかしそれすらも一瞬のうちに照れ笑いへと昇華させて、彼は頬を掻きながら話し始める。


「いやぁ・・・会長に心配してもらうような話じゃないんですけど。ただ何というか・・ルルーシュにも彼女ができたし俺はど    
「ルルに彼女〜!!?」


 リヴァルの意を決した告白は少女の悲鳴によって遮られた。ちなみにその少女は傍らで話を聞いていたシャーリーだ。確かにミレイも驚きはしたが、 シャーリーほどではない。ニーナまでおろおろと心配するくらい震えていたシャーリーは、しかし急にリヴァルの胸倉を掴んで揺さぶり始めた。


「ルルに彼女って・・ルルに彼女って本当!!? 相手はだれ!? だれなのリヴァルッ!!?」
「ふぎゃっ、おぅ、っ・・・し、知らないって! そこまでは、俺も・・っ!」
「ちょっと、シャーリー」
「お、落ち着いて」


 ミレイとニーナの二人掛かりでリヴァルから引き剥がされたシャーリーはそこで我に返ったらしく、小さな声で「ごめん」と謝ったきり顔を伏せてしまった。
 気まずい沈黙が生徒会室を包む。
 恋する乙女のパワーってすごいわねぇ、と一頻り感心したミレイは、やがて重たい空気を物ともせずにリヴァルへ問いかけた。


「でー? リヴァルの悩みって、ルルーシュに彼女ができたことだったの?」
「ち、違いますって! 俺はただ・・・俺もそろそろ本気で彼女がほしいなー、なんて・・」
「そう、頑張ってね」
「うおぉおお、なんすかその『私は関係ありません』的な応援は? 俺は会長一筋なのに〜」
「はいはい」


 またもやリヴァルの熱いハートを完璧に無視したミレイは、顎に手を添えた格好でシャーリーに視線を移した。
 シャーリーはすっかり落ち込んでいるらしく、スカートの裾を握りしめたまま動かない。それでもシャーリーは柔軟なその心で現実を受け入れる準備をしているのだと ミレイは察していたから。だからミレイは気休めにしかならない言葉を掛けたりしなかった。
 それにしても・・とミレイは考える。


(超天然記念物級におにぶちゃんのルルーシュに彼女? ううん、そうじゃなくって・・・・・)


 ランペルージ兄妹が抱える秘密を、事情を知っている者にすら一線を引くルルーシュを、ミレイはいつも心配していた。彼の内に潜む影は、尋常ではないから。 それを妹どころか誰にも明かさずに独り抱え込む姿を見ていて、頼ってくれたらいいのにと思ったことは一度や二度限りのことではない。
 そんなルルーシュに、彼女ができた。
 それは喜ばしいことであるはずなのに、ミレイが感じているもやもやは晴れなかった。胸の奥で疼く小さな棘のような痛みとは関係なく、心配だと心が叫んでいる。
        ルルーシュの彼女は偽りのないルルーシュを知っているのか。
        それでも尚、彼を受け入れてくれたのか。
        ナナリー至上のシスコンでも許してくれているのか。
 こんな不安を募らせる自分を馬鹿みたいだと思いはしても、ミレイはルルーシュに対するスタンスを一生変えることはできない。それは出会ったときから続く、 ミレイだけに許された特権だったから。


 生徒会長ミレイ・アッシュフォードは、ルルーシュ・ランペルージの姉のような存在である。


 秘密の一片を共有する者として、せめてルルーシュに聞いておきたいことがあった。
 たとえ「余計なお節介だ」と言われようとも。
 たとえそれが、自己満足の塊だとしても。






「・・・・・・・・・私、ルルーシュに会ってくるわ」












a confused day  トラブルメーカー







2008/ 8/25 up