別段猫が好きということはない。しかしどういうわけだか擦り寄ってくる黒猫を何とはなしに撫でていると、ひどく視線を感じた。
 それは、隣から。

「中尉の手は大きいですね」

 感心したように云ったのはwZERO部隊の司令、レイラ・マルカルだ。
 階級が上であるにも関わらず折目正しい態度と丁寧語を欠かさない彼女は、きちんと口頭で許しを得てからアキトの手に触れた。

「それに、とてもあたたかいです」
「・・・・・・・・」

 アキトは返答に窮した。
 自身の手を大きいとも、あたたかいとも、思ったことは一度としてない。それは未だかつて他人と比べたことがないからだ。レイラにそう云われた今ですら興味がない。
 ただ、たとえ大きかろうと体温が高かろうと、守れるモノは少ないと感じていた。
 アキトがこの手でできることは殺すことや壊すことばかり。
 死神に魅入られた、人殺しの手。
 それに引き替え、レイラの手は部隊を導く手だ。被害を極力避け、勝利へと導く存在。こんなにも小さくて華奢な手に、部隊は未来を委ねている。


「司令の手は・・・指がすぐに折れてしまいそうだ」


 その言葉に悪意はなかった。
 ただ見て感じたままを口にしただけだったが、レイラはムッとした様子を隠そうともせずに唇を尖らせる。

「そんなことありません」
「そうでしょうか?」

 初めは他意などなくても、レイラの真面目でほんの少し子どもっぽい反応はアキトの嗜虐心を擽る。
 アキトはレイラの華奢な手をそっと取り、軽く力を込めて握った。
 この程度で色が変わる指先。色白だからこそ余計に圧迫された赤が目立つ。そしてこんなにもやわらかい。
 これでレイラが生活できていることにアキトが無表情ながらも感心していると、「・・・あの、」と蚊の鳴くような声が聞こえた。
 ふと顔を上げれば、視界に入ったのは真っ赤になったレイラの顔。


「「・・・・・・・」」


 レイラばかりかアキトまで言葉を失う。
 これだからこの少女は危険なのだ。
 彼女が示す反応はとても素直で、アキトに『人間らしさ』を思い出させる。アキトを『ただの人』にしてしまう。
 それではアキトに生きている価値などないというのに。

「失礼を致しました」

 弱々しい手を解放してやる。
 失敗した、とアキトは内心で舌打ちをしていた。






『手』

体格差萌えのよくある話


2014/ 1/30 up