中庭の東屋で読書をしようと1階まで下りてきたレイラは、食堂から聞こえる賑やかな話し声に気が付いた。 薄く開いた扉から室内を窺う。 レイラが思い描いた通り、新たに入隊したばかりの少年少女3人がテーブルを囲んでいた。このスナックは美味しいだの、こんなものばかり食べていたら太るだの、お前はもう少し太れだの、ただの会話であるのにひどく楽しそうだ。 それは彼らが気の置けない仲間同士、もっと云えば家族のような絆で結ばれているからなのだろう。 裏を返せば干渉を拒絶されているのも同然で、レイラは食堂の扉をそっと閉めた。 ヴァイスボルフ城の中庭は広い。 石畳が敷かれた通路を歩いていると、少し先に人影を見つけた。レイラは思わず足を止める。 見慣れた人物だ。日向アキト中尉。通路の脇に生える木の根元に腰を下ろし、大きな幹に背を預けている。人の気配に敏いはずの彼が反応を示さないところを見ると、おそらく眠っているのだろう。 風が駆け、木々は枝葉を震わせて歌う。それ以外は静かな空間に、彼ひとり。 ( 記憶している限り、いつも独りだ。それはナルヴァ作戦以前も同じ。生き残った者が墓を作ると約束を交わしていたことが意外に思えたほどだった。 そして、今も。 新たな日本人3人は3人きりの『仲間』で、アキトだけが独りなのだ。ヴァイスボルフ城に馴染んでいるように見えるのも新人の方。 それは何故なのだろうか。 (打ち解けられると思ったのに・・) 親しくなるなら、共通点はないよりある方がいいに決まっている。初めは仲が悪くても、些細なことで打ち解けられることがあるからだ。だからレイラよりもアキトの方が彼らと親しくなれるのではと考えていたのに、そんな兆しは一向に見えてこない。 ・・・もっとも、アキトは戦士した少年兵たちとも親しくしている様子はなかったし、リョウたちもアキトに歩み寄る気がないようなので、誰を非難することもできないけれど。 (どうしてこんなに気になるのかしら?) 何かあれば力になりたいと思うし、何を感じ、何を考えているのかもっと知りたいと思う。誰に対してもそういう人であるように心掛けているけれど、彼に関しては特に、なのだ。 いつからかは覚えている。 パリで催された祝賀会。テラスに連れ出してくれた彼と他愛無い話をした、あのときからアキトのことをもっと知りたいと思い始めた。 ただ、それがどんな衝動に因るものなのか、レイラ自身よく解らない。 (でも・・・・・) アキトは部隊の大切な一員で、その彼と距離を縮めることが悪いことであるはずがない。 納得できれば行動は早く、ふわりとスカートを靡かせるレイラの足取りは軽い。この際読書は後回しだ。それよりも、もっと心が躍っている。 レイラは少年の傍らに立ち、そっと声を掛けた。 「ヒュウガ中尉。こんなところでお昼寝ですか?」
『衝動』 亡国SE1『見えない秋』直前のイメージで 2014/ 1/27 up |